上野研究室所属の本園千尋講師が2022年度ヒトレトロウイルス学共同研究センター熊本大学キャンパスベストペーパー賞グランプリを受賞しました!昨年に引き続き2度目の受賞となります。
ヒトレトロ研・感染免疫学分野(上野研究室)・講師 本園千尋
論文タイトル:The SARS-CoV-2 Omicron BA.1 spike G446S mutation potentiates antiviral T-cell recognition
著者:Chihiro Motozono (First & Co-corresponding author), Mako Toyoda, Toong Seng Tan, Hiroshi Hamana, Yoshihiko Goto, Yoshiki Aritsu, Yusuke Miyashita, Hiroyuki Oshiumi, Kimitoshi Nakamura, Seiji Okada, Keiko Udaka, Mizuki Kitamatsu, Hiroyuki Kishi & Takamasa Ueno (Co-corresponding author)
雑誌名:Nature Communications, 13(1):5440, 2022
(IF: 17.69, citation 5 as of 5th Jan. 2023)
掲載日:2022年9月21日
日本語要約: 最近のオミクロン株をはじめとする新型コロナウイルスの懸念すべき変異株は、ワクチン接種者における中和抗体活性(液性免疫)に抵抗性を示す一方で、細胞性免疫を担うT細胞応答には感受性を示す(抵抗性が低い)ことが明らかになってきた。しかしながら、個々のワクチン誘導型T細胞の変異株に対する抗ウイルス免疫応答の違いについては明らかになっていない。本研究では、日本人の約6割が有するHLA-A*24:02陽性のワクチン接種者において誘導される主要な抗原特異的T細胞応答について解析を行った。まず、NF9 (S448-456:NYNYLYRLF)/A24とQI9 (S1208-1216: QYIKWPWYI)/A24の2種類のスパイクタンパク質由来の抗原に対して特異性を持つT細胞応答がHLA-A*24:02陽性のワクチン接種者において優位であることを明らかにした。そのうち、NF9/A24特異的T細胞は、デルタ株に対するウイルス複製抑制が全く認められなかったが、オミクロンBA.1株に対するウイルスの増殖抑制効果は、武漢株、オミクロンBA.2株に比べて、顕著に高いことを見出した。一方、QI9/A24特異的T細胞は、いずれの株に対しても同等のウイルス増殖抑制効果があった。次に、ウイルス側の変異とT細胞受容体の認識について詳細に調べたところ、オミクロン株BA.1株のみが有する「G446S変異」(NF9/A24抗原の近傍に位置する変異)が標的細胞の抗原提示能を増強することによって、NF9/A24特異的T細胞から認識されやすくなっていることが明らかになった。これまで、懸念すべき変異株で認められる多くのスパイクタンパク質のウイルス変異は免疫逃避に関わっていると考えられていたが、本成果では、逆に、ウイルス変異が宿主の抗原提示能を高めることで、一部のワクチン誘導型T細胞の抗ウイルス機能が増強することを明らかにした。本成果は、標的細胞の抗原提示能増強によって抗ウイルス機能に優れたT細胞応答を合理的に誘導する新たなワクチンの開発に貢献すると期待される。
Opmerkingen